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Road to ヤクーツク

ロシア留学 応援します

春の嵐

さて、先送りにしてきたけれど、覚悟を決めて、電話をしなければならない。

 さいわい午後は外回り。

2つ向こうの市まで運転する間、少しは まとまった話ができるだろう。

 

長男はバイト代のほとんどを手付かずで残し、60万円を上回る資金を準備していた。

教官にもアドバイスをいただき、

奨学金をもらえない場合は、休学を考えている。

なんと、休学しても交換留学は成立するらしい。

 

私費留学の場合は、1年間の授業料で30~50万円くらいがとんでしまうが、

交換留学ならばロシアの大学の授業料は発生しないのだから、どうしても大学間の協定を通した交換留学がしたい。

休学している間 払わなくてすむ こちらの大学用の授業料を、

向こうでの生活費にしたい。

その他もろもろを、自分の貯金でまかなう。

 

なるほど、そういう手もあるのか。

でも、それで資金は足りるか…?

 

足りないと思う。

 

留学すれば、卒業は1年先になる。帰国後に3年生をやり直すのだ。

大学の授業料が5年分になってしまうのは確定。

長男の気概に免じて、そこまでは、覚悟した。

1年分多い授業料。それが私たちのギリギリ。

 

大学の授業料は、1年で50万ちょっと。

休学して、それをロシアでの生活費にあてる。

50万で、ロシアで1年暮らせるのか…?

 

長男が必死で準備した資金は、準備の段階でかなり少なくなる。

飛行機のチケット、ロシアでの移動費、日本国内での移動費、留学用保険、ビザ取得、書類作成...

渡航後にも、生活のために買わなければならないものがたくさんあるだろう。

防寒対策だって、行ってみなければわからない。

お金がないから買えない、という訳にはいかない。

足りない、ということは考えられない。

不足気味、もダメだ。

かといって無尽蔵に捻出できる訳もない...

 

 

 

 

 

我が家の家計に、不足分を補える余裕はないことを、

改めて、やっとの思いで、伝える。

 

『残念だが、1年の留学は厳しいと思う。 

留学期間を短くしてはどうか。

もしくは、もう1年バイトをし、4年生で留学してはどうか。』

 

それぐらいしか、思いつかない。

でも4年生で行ったら、就職活動、アウトだよね。

やっぱり、短期間にするしかないのでは…

 

『なんとか、あなたの資金を最大限に活かしたい。

絶対に行かせてやるから、でもそれには譲歩も必要なんだよ。』

  

周りの友達は特に資金の心配をする様子はないらしい。

みんな普通に留学していくのだから、納得がいかないだろう。

だけど、資金不足のままの計画では海外に出せないよ。

 

だんだん、情けなくなってくる。

やっぱり留学ローンを使うべきだろうか。

いや、それじゃあ、こちらの生活が成り立たなくなる時が来る。

逆だ。

長男がローンを組みたいと言ったら、止めなければならない。

そもそも留学は必須じゃない。

贅沢品なんだから。

 

『できる範囲でやるしかないよ。

お母さんもバイトを増やしているけど、毎月何万もロシアに送るのはムリだと思う。

お父さんにだって、これ以上働いてなんて言えないでしょう…?

月末に帰って来るんでしょ。そしたら、お父さんはあなたに結論を言わなきゃならない。

そこで話が終わってほしくないんだよ。

帰ってくるまでに、できれば第2希望を考えてほしい。

建設的に考えてほしい。』

 

 

 

自分は結局、留学がかなわなかったことを思い出す。

くっそ、涙出てきた。

 

長男、『うん』を繰り返す。

電話の向こうで、ティッシュを箱から引き出す音がする。

そりゃ、悔しいよな…

 

 

 

 

『みんなにロシア行くって言っちゃったから、これって恥ずかしいよね』

 

『いや、行くのは決定なんだから。

どうするのが、あなたにとって一番バランスがいいかってこと。

無理な計画にゴーサインは、お母さんには出せない。』

 

 

 

お金だけの問題だなんて、嫌になる。

こんなこと、私だって言いたくはない。

 

でも、 長男に言うべきことは、全部言えたと思う。

なんとか伝わって欲しい。

 

 

 

長男が小さい声で

『ありがとう』

と言うから、また涙が出てしまった。

 

       

 

             

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夕方仕事を終えて帰途につくと、風がすごく冷たい。

いつもより空が暗い。いや、雲が真っ黒なんだ。

いそいで家に向かって歩き出すと、長男からラインだ。

また、怪しいロシア語を送ってきやがったな。

 

 

 Только сейчас я получил хорошие новости от профессора.

たった今、教官からすばらしい知らせが来ました。

 

 

Я могу получить стипендию деньги!

奨学金、もらえます!

 

 

 

え...?

 

いそいで電話をかける。

ええい、電車の中なのかよっ。

立ち止まって返事を返す。こっちは寒いんだよっ。

 

『本当に?』

『教官からメールが来た!』 

奨学金があるだけじゃなくて、あなたも もらえるってこと?』

『成績クリアしてるし』

『なんか信じられない。本当に? ファイナルアンサーーー??』

『たぶん』

 

出た! 得意の「たぶん」!

 

なに この展開

なに このタイミング

まるでジェットコースターだ、訳がわからない。

 

スタンプが踊って喜んでいる。

なんて返せばいいか迷っていたら、まわりでパラパラ音がし始めた。

 

うそっ、雹だ…。

風が強い。めちゃくちゃ冷たい。

とりあえず、帰ろう。あわてて走り出す。

 

本当かな。

ぬか喜びだったらイヤだな。

でも何だか にやけてくる。

 

ああ、これ、けっこうな雹だよ。

地面に当たって、そこらじゅうで跳ねている。すごい。

いいぞいいぞ、もっと降れ!

 

大笑いしたいような、泣きたいような、

今すぐ寝込んでしまいたいような。

 

なんで今日電話かけちゃったんだろ。

無駄だったじゃん。

うっかり泣いちゃったよ。

なんだよ、私の涙を返せーー!

 

 

いつの間にか日が落ちて暗いのに、辺りはうっすら白くなってきた。

 

今日はすっかり疲れてしまった…

うちについたら、コーヒーを入れて落ち着こう。

 

 

 

 

 

私がどんなに嬉しいか、あの子には絶対にわからないだろうな。