Road to ヤクーツク

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夏休みの回想録

 
 
 
台所で暑さと格闘していると、次男がドタバタと走って来た。
『お母さん、花火始まった! すごいよ!』
 
遠くから大きな打ち上げ音が連続して響いて来る。
わかってますって。はいはいはい。
お前、すぐ飽きるくせに、始まると一応テンションあがるんだよな。
 
次男とベランダへ出ると、大きな花火が次々にあがる。
昼間の暑熱はいくぶん弱まり、とても心地よい風が吹いている。
 
今年も夏だなー。
 
花火ってヤツは、いつも進化していて、見たこともない動きをしてくるから、びびる。
どーん!と打ち上がり、大輪の花を咲かせてゆっくり枝垂れていくかと思ったら、そこから落ちるのを拒否するみたいにヒュンヒュンと飛び回る。しかも色とりどり。
なにあれ!(◎_◎;)
 
『おおっ!』
『あれ見て見て!』
次男と、ちょっとばかり騒ぐ。
 
少し見ては部屋に戻ってテレビを見、大きな音がしてくると、またベランダに出る。せわしない。
 
 
いつも花火の会場には出かけず、ベランダからの見物だ。
今年も旦那はまだ仕事。帰りは花火終わりの渋滞に巻き込まれてしまうことだろう。
一回くらい、みんなで見に行ってみたいけど、まだ叶えられていない。
あっと言う間に次男も6年生だし、もう親と花火なんて行かないだろうな〜。
 
 
 
 
次男は今、子供時代のギリギリ最後にいる。
見た目はすっかり中学生だけど、行動にはまだ小学生らしい子供っぽさが残っていて、距離感を測りかねてしまう。
 
受け答えがぶっきらぼうで反抗的かと思うと、何となくすり寄って来てくっついてみたり…
ニュースに鋭いツッコミを入れたかと思うと、CMのくだらない替え歌を延々と歌い続けては、一人で大笑いしていたり…  
なんなんだよ。
 
もうすぐ、加速度的に離れていく予感。
くっついて直接体温を感じられるのは、もう今だけなんだろう。
本当に微妙な、貴重な『今』だ。
 
 
 
花火を見ながらも、次男はお盆の帰省が気になって仕方がないらしい。
『今年はお父さん行けないんでしょ?』
『じゃあ電車で行くの?』
『いつまであっちにいるの?』
『長男くんも、行くんでしょ?』
 
やっぱり楽しみなんだなぁ…。
大人にとっては、体力勝負でしんどいところもあるんだけどね。
 
 
 
次男が笑い声をたてると、その声があまりにも長男に似ていてびっくりした。
次男にそう言うと、
『そう?別に普通だけど?』と、
なぜか嬉しそうにしている。
 
顔も体格も全然似てないのに、声は似るんだ…不思議だな。
 
 
 
 
※ ※ ※
 
 
 
そう言えば、弟たちも声がそっくりだった。
 
私には弟が二人いて、
上の弟(長弟)は一つ下、
下の弟(次弟)は六つ下。
顔も体格も全く似ていない。なのに、声だけはよく似ていた。
 
実家に電話して弟が出ると、どちらなのかまるでわからない。
ただでさえ似ているのに、二人とも極度に無口なものだから、全く区別がつかないのだ。せめて名乗ってくれよ。
 
懐かしい。
そんな無口な長弟が、交通事故であっけなく逝ってしまってから、もう10年以上がたつ。
 
 
 
※ ※ ※
 
 
 
あれはもう3年か4年くらい前だと思う。
 
その時父は、突然仏間の遺影を整理し始めたのだ。
曽祖父、曽祖母、祖父、祖母、そして長弟の写真。
なにを思ったのか、父は遺影を拭き清めるだけでなく、額縁を外して、写真を取り出し始めた。
 
するとどうだろう、曽祖母の写真の下から、見たことのない若い男性の写真が出てきたのだ。
軍服を着て椅子に腰掛け、こちらを遠慮がちに見つめる男性。
 
父が驚いてみんなを呼び集めると、
その場のだれもが思わず息をのんだ。
写真の男性は、次弟に瓜二つだったのだ。
 
いや、よく見ればそんなに似ていないのかもしれない。
けれど、なんだろう、面差しというか、雰囲気というか…
次弟と写真の兵隊さんは、やはりよく似ている。
 
出征前に撮った写真なのだろう。
母が、これは じいちゃんの弟さんじゃないか?と言った。
徴兵されて南の海へ行き、帰って来なかった弟さんがいるはずだ、と。
 
私は頭を殴られたような衝撃を受けた。
そうだ、確かに聞いたことがある。
墓誌にもその名が刻んであった。
戦死の知らせだけは来たけれど、遺骨も遺品も、何も戻らなかったと聞いた。
あきれたことに、私はその時初めて、肉親の死を実感したのだ。
自分に連なるたくさんの血縁の一人としてではなく、
同じ時間を過ごす家族の一人として。
 
戻って来られなかった。
南の海で命を落としたのだ。
 
どれだけ帰りたかったことだろう。
曽祖父母はどれだけ待ったことだろう。
次弟と同じ顔をした、まだ若い大叔父。
 
なんで私は、今まで一度も彼に思いを馳せなかったのだろう。
なんで一度も悼まなかったのだろう。
 
私は心から恥じた。
自分は大馬鹿野郎だと思った。
罪悪感でいたたまれない。
涙が出て仕方がなかった。
 
やさしそうな大叔父が次弟とそっくりだったことが、
あたたかく心に沁みた。
 
 
 
 
※ ※ ※
 
 
 
 
 
今年も、あと数日で帰省する。
 
次男の成長に、みんな驚くだろう。
次弟にそっくり! って言われるだろうな。
 
父と、次弟と、私と、次男。
顔が見事に同系列(苦笑)。
 
次弟は今年も どでかいビニールプールを出して、スイカをプカプカ浮かべて待っていてくれることだろう。
 
次弟を隊長にして、長男と次男は盆提灯を出す手伝いをするだろう。
 
 
田舎に帰ると、息苦しくて面倒なことも多いけれど、 
自分が、目に見えない大きな流れの中に存在していることを、何となく実感して安心する。
 
いや、目に見えるか。
すっげー似てるもんな。
 
 
 
長男と次男も感じてくれるだろうか。
 
そこに無条件の何かがあることを、感じてくれるだろうか。
 
 
今年も丁寧にお線香をあげて来ようと思う。
故郷の空気をたっぷり吸って来ようと思う。