Road to ヤクーツク

ロシア留学 応援します

秋の休憩

 

騒々しい国道を左へ曲がると、景色が急速に穏やかになってきた。

隣町役場へ向かう道は、遠くの方まで田畑が広がっていて、空がずいぶん広く見える。

仕事とはいえ遠出をするにはもってこいの秋日和だ。

これでもかってほどの快晴。

気分よく車を走らせて行く。

 

街路樹のイチョウはまだまだ緑色が強いけれど、遠目に見ると道全体がうっすらと黄色がかって見えている。

段々と季節が進んでいく感じ。

ああ やっと秋なんだなあと、嬉しい気持ちになってくる。 

 

私は秋冬が好きで、雪も好きだ。

これから寒くなって行く今の季節は、心躍る季節。

だが、職場でそれを表明しようもんなら総スカンをくらうので気を付けなければならない。

世の中の女性は寒がりなんだよな。

 

ゆったり流れる河に浮かぶたくさんの船を横目に橋を渡り、駅通りの交差点を左へ。

緩やかな傾斜をのぼって大きくカーブをきると、大鳥居が鎮座する木立の暗がりの前方に眩しい光が見えてくる。

 

はやる気持ちで坂を下り切ると、急激に開けた目の前いっぱいに、明るい海が広がる。着いた!

 

 

ブラボー!!   ハラショー!!

 

 

音楽を止めて全ての窓を全開にすると、海の風と波の音がどっと吹き抜ける。

人通りは少ないのに、景色に動きを感じるのは、波の音のせいなんだろうな。

海鳥は群れをなして飛び回っているし、風は潮の香りだし…

 

海、いいなあ…

 

山のふもとで育ったせいか、いまだに海に来るとテンションがあがってしまう。

この町役場には、たまに用事が発生するので、その度しめたと思う。

最短距離で役場の裏手から来ると海がよく見えないので、いつもほんの少しだけ迂回して到着する。

 

そうだ、さっさと役場で書類をとって、海辺で少し休憩してみようか。

すごい!そうしよう、そうしよう。

 

 

※ ※ ※

 

 

砂浜を見下ろす駐車場に入ると、隅っこに そーっと車を止める。

所長、私サボってませんよ?

3時の休憩です。ちゃんと10分だけにします。

 

周りを見ると、休憩中のオジサマ方が多数。

みんな適度に距離をとって車を止め、思い思いに休んでいる。

 

青空といい、柔らかな風といい、日差しといい、こんなに気持ちのいい日が、一年の間に一体何日あるだろう。

あ〜、五郎さん(旦那)と次男と一緒に来たかったな〜。

二人に少し申し訳なく思いながら、何度も大きく深呼吸をする。

 

iPhoneを取り出すと、海の写真をパシャ。

うーん、イマイチかな。もう一枚パシャ。

海を撮ったり空を撮ったり。

数枚吟味して、『海、なう』家族に送信。

ふふふ。い~だろ~。

さあ、気が済んだ。

 

ススキの原っぱの上にたくさんトンボが飛んでいるのが、いかにも秋らしい。

ずいぶんたくさんいるなぁと目で追っていくと、波打ち際にもたくさん飛んでいることに気がついた。

それも、すんごくたくさん飛んでいる。

 

え、トンボって、海にもいるんだっけ…?

海水の上を群れ飛ぶトンボを初めて見て、なんだか驚いてしまった。

 

そうだ、写真! 

早速トンボの群れをパシャ。

 

…小さ過ぎて、写りやしねえ。

私の愛するiPhone5ちゃんには荷が重過ぎたようだ。

あーあ、残念。

 

いつもは今頃、書類を作ったり市内を回ったりしているのに、どうしたことか、今日はこんな贅沢なひと休みをしている。

こんな風に、一人で海辺でのんびりしたことなんかないな。

開放的なような、ちと淋しいような。

 

トンボの大群、次男は見たことあったかな。

五郎さんはまた、会社で理不尽と戦ってるんだろう。

海の向こう、長男は楽しくやっているのかな。

つーか、ロシアは日本海側だし。

太平洋から見たらめっちゃ遠いわ。

そんで今日はマイナス何℃なんだろ。 

 

そういや、学費の振り込みもうすぐだな…

そうだ、次男のジャージ、買うの忘れないようにしないと。

五郎さんもワイシャツの長袖が欲しいんだっけ。週末買物だな。

 

いやいや、待て、いったん、考えるのやめよう?

せっかくの休憩なんだから、無になろう。

海がもったいないじゃないか。

スイッチOFFだ。秋を楽しむんだ。

 

 

ああ、私、のんびりとか一人とか、向かないのかもしんない…

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

時間を確認してそろそろ車に戻ると、名残惜しい気持ちでエンジンをかける。

風が気持ちよかったなぁ。

サイドブレーキをリリースしたところでLINEの着信。

画面をチラ見すると、長男からだ。

さてはキサマ、暇だな?

 

『Разный мир !』  

 

おしい、もう帰る時間。返信は後だな。

ゆっくりと車を出す。西日が眩しそうだ、サンバイザーをおろす。

 

ラズニイ ミール

え〜と、異なる…世界?

別々の…世界?

あ、別世界?

 

そーね、そりゃヤクーツクからしたら、日差したっぷりの海は別世界だろうな。

そっちじゃ そろそろ河も凍っちゃって、車で走れるようになるんでしょ?

別世界にいるのはあなたの方ですから。

 

でも、今日は私も、少し別世界だったよ。

なんだか脈絡なく、いきなり海辺にいたような感じ。

結構のんびり過ごした感じ。

秋を満喫した感じ。

って言っても伝わらないだろうけど。 

 

『海で休憩しました。』

『こちらはやっと秋らしくなってきたよ。』

こんなとこかな。夜、次男と一緒にLINEしてやろう。

 

さて、夕方 道路が混み始める前に、早いとこ戻ろう。

 

道端のススキが美しくて、赤信号のたびに眺めながら市内を目指す。

そうだ、ヤクーツクにもトンボはいるのか、聞いてみようかな…

 

 

 

 

 

 

広告を非表示にする